「臨終師フォン」創作メモ

長編小説「臨終師フォン」を出版しました。よろしくお願いします。出版までの過程をメモとして残して、みなさんのお役に立てればと思います。

出版までの大まかな流れ

詳細を書く前に、大まかな話を書いてみます。何か聞きたいことがあれば、コメントをして頂ければ、詳しく説明したいと思います。

2019年以前、いつかは長編小説を書きたいと思いつつ、メモだけが溜まっていました。その中には今回、使ったアイデアの"横田カオルーン”、”LA死刑囚実験”などのネタがあり、日頃のメモ習慣というのは物書きには役に立つことを実感しました。

当時の仕事の集中分野は人工知能でしたが、"強いAI"にも興味があり、小説のひとつのアイデアを思いつきました。"強いAI"とは、心を持ったAIのような意味でWikipedia強いAIと弱いAI を参照するといいと思います。そもそも心とは何か(心脳問題/mind-brain problem)、ということも「臨終師フォン」 のテーマにはなっています。

イデアから物語を、いくつかのバージョンで考えてみましたが、どうも面白くなりませんでした。根本から方針を考えることにして、どうせなら長編小説、それも映画化を前提としたエンターテイメント小説にしようと決心しました。ここはかなり前に読んだ、クーンツの「ベストセラー小説の書き方」に影響をうけています。

映画の作り方として、以前読んだ「シド・フィールドの脚本術」を読み返して、ストーリラインとキャラクタの設定を考え直しました。主人公フォンの行動への意思、葛藤が弱いことが欠点だと思い、いろいろ手直ししましたが、最後まで満足はいきませんでした。シド・フィールドの評価で考えれば、最終稿でも及第点ぎりぎりと言ったところだと思います。

シド・フィールドの方法に従って、その他のキャラクタを考え、それぞれの背景をかなり作り込みました。1990年代前半の映画脚本作成ソフト、Dramaticaのマニュアルを読み返し、キャラクタのバランスを考え直しました。このマニュアルでは「スターウォーズ」の登場人物、ルーク、ハン・ソロ、レイア、オビ=ワン、ヨーダR2-D2C-3POダース・ベーダーなどなどを例に、物語の中でどのような役割を果たしているかを説明しています。それをベースに新たなキャラクタ像を作っていきました。キャラクタについては後述します。

dramatica.com

キャラクタと同時に、世界の設定をかなり作り込みました。技術により世界がどう変化するかを考察するというのは、SFとしては重要な部分です。仕事で未来技術予測、シナリオプランニングの経験があるので得意な分野ではあります。マクロ経済、ミクロ経済、政治、国際政治、民主主義、情報、産業、農業、医療、食文化、教育、交通、宗教、音楽などなどの細かい部分に分け、舞台となる2055年までに、その世界がどう構築されていくかを考察し作りました。また、矛盾が起きないように、年表を作り、年表の中で登場人物がどういう位置にいたかを書き込みました。

舞台設定と登場人物が出来上がると、再びストーリーラインを構成していきました。三部構成を舞台ごとに考え、トルコ、北ドンソン、南ドンソン、香港、台湾上海NY、横田の6章、それぞれに20シーンを作り、それぞれ1シーンを10カットで作ると合計で1200カット。1カットずつを文章に起こしていけば200ページ程度の小説になると、ほぼ確信できました。

シーンから小説に起こす段階で、文体についてはかなり悩み、試し書きをしました。文体については後述します。シンプルに、映画を文章にするように描写を入れて書き込んでいくということで、ある程度割り切れました、というか諦めました。最初に書いてみたのは、レイラの登場シーンです。一度、どこかのシーンを書いてみて、リライトを繰り返すのがいいと思います。

ストーリライン、それぞれのシーンが書けたので、シーンごとにカット割をするように書き込んで下書きを作りました。当然、途中で舞台の追加変更、キャラクタの追加変更、イベントの追加変更などかなりの紆余曲折がありました。下書きが大まかに書けたので推敲に入りました。これを何度も繰り返し、また読み上げ機能などを使い音声としても聞きました。推敲に関してはいくつかのツールを試しましたが、満足がいくものはありませんでした。

表紙は自分で作りました。SFの表紙を見ると、青から黒のトーンが多いので、あえて赤を基調にしてみました。この表紙が何を意味するか、読後ならわかるかもしれませんが、なんか変な表紙になってしまいました。しかしながら、見慣れるうちに好きになってきたので、このまま使っています。本屋に平積みされたら、不気味な表紙だと思います。現代美術のアニッシュ・カプーアの作品をヒントに作っています。

KDPに出すための準備段階は混乱しました。これは間違った情報がネットには散乱しているためです。 Amazon Kindle ダイレクト・パブリッシングから素直に従って行った方が簡単です。特に米国納税者番号については、古い情報、間違った情報があるようです。私は「納税者番号を持っていない」で登録してあります。

epubを作るまでの方法は、Pages経由で作っています。詳細は後述します。KDPにePubを登録して出版する段階は簡単でした。数時間で終わってしまいました。

それぞれの詳細はこれから書いていきたいと思います。リクエストがありましたら、コメントにお書きください。